スタッフのつぶやき

人生の大事なことは映画が教えてくれた vol.3

日曜の夜といえば私、ヨドガー・ナグァ・ハールです。
前回の「帰ってきたヒトラー」に続いて、今回は同じ人物を扱った昔の映画をご紹介しましょう。
1978年の製作で日本では劇場公開されなかった映画です。
 
「ブラジルから来た少年」
 
おや、同じ人物を扱った映画と言ったじゃないか? と思ったアナタには、この時点ですでにネタバレしているので先に謝ります。
これは、南米に逃亡したナチスの残党がヒトラーのDNAからクローンをつくってナチス再興を図ろうとする計画と、それを阻止しようとするナチ・ハンターの物語なので・・・。
 
21世紀の今、冷静に考えると壮大を通り越して荒唐無稽にみえるこのクローン計画を進めるのはヨーゼフ・メンゲレ博士。アウシュビッツで人体実験を繰り返し「死の天使」と呼ばれた実在の人物で、演じるのはグレゴリー・ペック。ピンとこない人には「ローマの休日」でオードリー・ヘプバーンと恋に落ちる新聞記者というと分かりやすいでしょうか。
計画を知ってメンゲレを追い詰めるナチ・ハンター、リーベルマンは創作上の人物で、ローレンス・オリヴィエが演じています。
今年が没後400年のシェイクスピア作品で有名な名優ですが、“悪役もできる顔”、 いわゆるちょっと怖い顔ですね。
 
そんなわけでオールドファンの中には「どう考えても配役が逆じゃないの?」と思われる方も多いのではないでしょうか。
実際、オリヴィエはこの映画の2年前に「マラソンマン」でナチ残党の残忍な博士を演じています。ペックはというと相対的に善人の役が多く、直前には「マッカーサー」でタイトルロールを演じていました。この、いかにもイメージが逆!な配役の妙は、まず活きていると感じられるポイント。
 
主役の配役以外ではジェリー・ゴールドスミスのペンによる優雅な音楽も、優雅であればあるほどナチ残党の狂信的な夢を笑っているようで活きていると感じます。
 
そして何よりも、1人で何役もこなす子役の少年の不気味な表情! これこそが本作で一番活きていると感じる要素でしょう。エンディングの暗室のシーンなんか「オーメン」ラストシーンのダミアンのよう!(そういえば「オーメン」の主演もグレゴリー・ペックでした・・・)
70年代は、悪魔に取りつかれてしまう「エクソシスト」のリンダ・ブレアを筆頭に怖い怖い子どもがたくさん登場しましたね。
 
さて、ヒトラー復活の夢はもちろん潰えます。ある意味、ド・ゴールが暗殺されなかった史実を知って観る「ジャッカルの日」と同様に予定調和な結末といえますが、そこまでのサスペンスの盛り上げは一級品。
それでもなお「ブラジルから来た少年」は、唯物論的な設定が現代から見るとちょっと古めかしい。
クローンに対する期待や恐怖もいかにも70年代という時代を反映しているように感じます。
その事実が作品の質を落とすいう意味ではなく、やはり “映画は時代を映す鏡” なんだということでしょう。
 
さて、先ほどオリヴィエ演じるリーベルマンは創作上の人物、と書きましたが実はモデルがいます。
有名なナチ戦犯であるアドルフ・アイヒマン逮捕に一役買った実在のナチ・ハンター、サイモン・ヴィーゼンタールです。
 
逮捕後のアイヒマンについては、ハンナ・アーレントによる裁判記録「エルサレムのアイヒマン」が巻き起こした大論争が有名ですが、そのあたりは「ハンナ・アーレント」という映画でも描かれています。素晴らしい映画なので未見の方はぜひ一度ご覧ください。
 
「私の罪は従順だったことだ」  ・・・これはアイヒマンの言葉。
 
このように、映画はつくられた時代の空気を反映します。直接、時代そのものを描くこともあります。(時代そのものを描いている場合は、つくられた時代の倫理観や道徳観、あるいは政治権力の思惑といったバイアスがかかっていることがあるので注意が必要ですが)
歴史の勉強に、映画は最高の教材になると思いますよ!
 
それでは次回をご期待ください、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。
 
 
ヨドガー・ナグァ・ハール

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