兵庫県立美術館の「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」展に行ってきました。
アウトサイダー・アート/アール・ブリュットを代表する芸術家ヴェルフリの日本初となる大規模個展ということで、“目もくらむようなボリューム”というキャッチコピーには若干のもの足りなさを感じたものの、驚異的な表現で描き出される奇想天外な作品群の迫力には圧倒されてしまいました。まさにファンタスティック&エキセントリック!
ヴェルフリは約35年の歳月をスイスの精神病院で過ごしながら新聞紙用の紙に色鉛筆で25,000頁に及ぶ長大な物語を描き続けました。どの作品も紙面いっぱいに余白なく、同じモチーフを執拗なまでに繰り返し描いていて、鉛筆は2日に1本のペースで使い切っていたといいます。
おそらくヴェルフリは自分の内面から湧きあがる衝動を“描く”ことによって昇華させていたのでしょう。まさに“アール・ブリュット”を体現した作家ですね。
そして、ヴェルフリ展を見ながら思い出したのがヘンリー・ダーガーの「非現実の王国で」と「シュヴァルの理想宮」のこと。
ヘンリー・ダーガーはヴェルフリ以降、アメリカに現れた“アウトサイダー・アート”の著名な作家。他者とのコミュニケーションがとれないまま、清掃人として職場と教会のミサのみに外出するという“引きこもり生活”を続け、「非現実の王国で」と名付けられた世界一長い物語と不思議な子どもたちが活躍する膨大な挿画を残して亡くなりました。
そして、すでにおとぎ話の登場人物のように語り継がれているのがフランスの郵便配達人シュヴァル。彼は仕事中に躓いた石に魅入られ、周囲の人からは変人扱いされながらも石を積み上げることに没頭し、いつしか「シュヴァルの理想宮」と呼ばれる巨大でミステリアスな石の建造物をたった一人で造り上げました。
ヴェルフリもダーガーもシュヴァルも生前は周囲からは孤立し顧みられることはありませんでした。彼らは「認められたい」とか「上手くなりたい」とか「好きだから」といったこととは無縁に、むしろ世の中の評価軸とは隔絶したところで“生きる行為”として創作に取り組んでいたのですから。しかし彼らの残したものの偉大さが、後世、彼らをアーティストたらしめたのです。
彼ら「無限の国の王」を思うと、つくづくアートというものが持つ不思議な力と可能性について考えさせられます。
緑のさかな